2022年09月26日

第三話 繰り返しの幽霊2




 神原の事務所に到着したのは、それから二十分後のことであった。そもそもこの事務所に足を運ぶ用事があったからこそ、ぼくはあの喫茶店に足を運んだ訳であるし、そうでなければわざわざ来ることもない。……そんなこと言ってしまうとマスターが悲しみそうだけれど、それはそれ。
 神原の事務所はいつも通り足の踏み場もないぐらいゴミが置かれている――いや、訂正しよう。ゴミもあるけれど本や衣服も置かれている。投げっぱなし、とはこのことを言うのだろう。
「相変わらず神原の事務所は汚いったらありゃしない……」
 こいつには掃除という概念がないのか。
 一度、掃除とは何たるかを懇々と話していくべきではあるまいか。きっとこいつは掃除という単語そのものは知っていても、その意味までも理解していないのかもしれない。だから、こんな部屋になっているのだ。きっと、多分、メイビー。
「僕ちゃんを勝手に貶めないで欲しいものだね。というか、僕ちゃんだって掃除ぐらいするよ? 少しは見くびらないで欲しいものだね」
 一度も見くびっていねえしどうやったら掃除してこうなるのか教えて欲しいものだ。
 まさか掃除をしようとしたのにうっかりさんでゴミ袋をひっくり返しちまったんじゃないだろうな?
「僕ちゃんがそんなうっかりをする訳がないだろう。……ところでたーくん、一体何しに来たんだい? まさか僕ちゃんに文句を言うためだけに来たんじゃないだろうね。だとしたらあまりにも風変わりというか、流石にきみを軽蔑するよ」
「軽蔑、って……。流石にそんなこと言われるとは思いもしなかったよ。ぼくとしては別にそんなことを思っていないし、思っていたとしても表に出さないよ。それぐらい分かるだろう?」
 それをわざわざ言うぼくもぼくだけれどね。
「ああ、そう言われればそうかもね」
 それで納得するお前もお前だからな。
 神原はマグカップを持ってくると、テーブルの上に置かれているポットからお湯を注いで、そこにインスタントコーヒーの粉を入れた。
「お前、本当にインスタントコーヒーが好きなのな……。美味しいか?」
「こうも飲んでいると慣れてしまうね。たとえ美味しかろうと美味しくなかろうと」
 つまり美味しくねえってことかよ。
 それでも飲もうとしているのは酔狂だな、全く……。というか、探偵はコーヒーを飲むのが当たり前みたいに思っていたりするのだろうか? 確かに探偵もののドラマを見ているとそういう場面は出てくるし、もしかしたらそれを狙っているのかもしれない。ステレオタイプとはこのことを言うのだろうね。
「きみは?」
「いや、要らないよ。そこまで散々と言っておいて、インスタントコーヒーを貰おうとするのはちょっと変わり者というかサイコパスの気があるだろうし……」
 それとも、ぼくがサイコパスだと思われている、ってことか?
「え、違うのか?」
「違う……と思う。確証は持てないけれど。だって、サイコパス診断とか受けたことないし」
「一度受けてみたらどうだい。もしかしたらぶっちぎりでサイコパス認定されるかもしれないぜ?」
「いや、普通に考えてサイコパス認定されたいがために診断を受けるつもりはないよ……。それこそ百パーセントサイコパスに認定されちまうじゃないか」
 サイコパスと話をしていると、自分もまたサイコパスになってしまうような――そんな感じはするけれどね。感染すると思うよ、サイコパスというのは。
「それじゃあ、ジュースはどうだい? こないだ、秋山から暑中見舞いが届いてね」
「こないだ、って……。出会ったばかりじゃねえかよ。それでも暑中見舞いってあげるものなのか?」
「そりゃあまあ、探偵仲間だからね。数少ない同士でもある。それならば、仲良くしておいて悪いことはあるまい。……まあ、暑中見舞いをこうやって丁寧に送ってくることはあんまりなかったのだけれどね。今までは確か……適当な旅のはがきを一枚送ってくるとか、そんな感じだったのだけれど」
「今年は?」
「ビールとジュースのセット」
「わーお」
 普通に暑中見舞いじゃねえか。
「それなら貰おうかな。……ちなみに味は何から選べる?」
「オレンジもあればアップルもあるし、パイナップルもあればグレープフルーツもあるよ」
「選り取り見取りだな……。冷蔵庫の中身を見てから判断しようかな。ところで流石にそこまでいって、実は冷えてませんでした、って落ちじゃないだろうな?」
 温いジュースはあんまり美味しくないぞ。
「いやいや、流石にそんなことはないよ。……多分ね」
 多分ね、で逃げ道を探すんじゃないよ。
 それで温いジュースしかなかったら、ぼくは文句を言うぞ。
 冷蔵庫は神原の座る椅子のそばに置いてある。当然ではあるけれど、事務所の所長たる神原が使いやすいように家具家電が置かれているので、冷蔵庫や電子レンジは事務所の奥に固まっている。別にここまで固めなくても良い物を、などと思ってしまうことはあるけれど、神原の家だから別にいいや、と思ってしまう。
 冷蔵庫を開けると、缶ジュースが十本ぐらい大量に入っていた。成る程、まだ一本も口を付けていない、という訳か。だったらそれはそれで有難いかな。多少引いたとはいえ、未だに辛さが口の中に残っている感覚がある。だったら、アップルジュースで口直しをしておくことにしよう。
 アップルジュースの缶を取って、ぼくはソファに腰掛ける。ゴミ袋が置かれているが、直ぐにそれをどかす。流石にゴミと一緒のソファで座ってジュースを飲みたくはないからね。
「……ここに来た理由を聞いても良いかな?」
「ああ、そういえばここに来たのは……ジュースを飲みに来たんじゃないんだよな。ここは確かにクーラーも効いてジュースもあって快適な場所ではあるのだけれど……、大量のゴミさえ除けばね。ここで住めるのはホームレスぐらいだよ、全く。ちょっとは綺麗にする努力をした方が良いと思うよ?」
「僕ちゃんも努力している方なんだぜ。少しは理解して欲しいものだね……。ところで、ここに来た理由は遊びに来た訳ではない、と? だとすれば、やっぱり仕事の依頼かな?」
 そりゃあ、そうだよ。
 お前に仕事を依頼するために、わざわざぼくはここまで足を運んでいるんだ。感謝して欲しいぐらいだね。エージェントとして活動しているのも、かなり大変なんだ。今度エージェント料を改定してもらおうかな。三パーセントぐらい値上げしても良いんだぜ。無論、交渉してお互いに納得しないといけないのだけれどね、それこそ労使交渉みたいに。
posted by 巫夏希 at 23:34| Comment(0) | 心霊探偵

2022年09月25日

第三話 繰り返しの幽霊1


第三話 繰り返しの幽霊



 絶海の孤島での事件が起きてから一週間、ぼくはというもののそこまで日常に異変が起きた訳でもなく、普通の日常を送っていた。
 ただ、強いて言うならば味覚があまりにも変わっていたことぐらいか――当然と言えば当然なのだけれど、あの数日間で三大珍味をはじめとした高級食材のオンパレードを味わえば、誰だって味覚がおかしくなる。
 味覚を元に戻さないといけない。
 そういう訳でぼくは刺激を求めて、近所のカレー店に足を運んでいた。カウンターと小さなテーブルが数個しかない狭い店だが、味はそれなりに美味しいこともあってランチタイムともなれば多くの人でごった返している。
 けれども、ぼくは混雑が嫌だからこうやって時間をずらしてやってきている、という訳。
「はい、お待ち遠様」
 ぼくが注文したのは、辛さマックスのボルケイノ。このお店の辛さは数字で言うんじゃなくて、それに見合った名前で注文することになる。一番辛いのがボルケイノ、それからマグマ、スチーム、と下がっていく形。一番辛さが控えめなのはアメリカンだったかな。アメリカンコーヒーがコーヒーを水で薄めて冷ましていることから来ているらしい。台湾ラーメンも同じやり口だったと思うけれど、どっちが先なんだろうね?
 見た目からして明らかに辛そうなのは分かる。何故ならば、ルーが真っ赤だからだ。こんなに真っ赤なルーを見たことがあるだろうか? いや、ないね。反語表現を使いたくなってしまうぐらいには、真っ赤だ。カレールーというのは、大抵茶色だと思うのだけれど、何故ここまで真っ赤に出来るのだろうか。ターメリックは使っているはずだが……。
 後は匂いか。匂いもどう考えてもカレーの香りが消失している……。鼻を突く刺激臭、或いは唐辛子の香り。どうしてこんな物を注文してしまったのか、今は後悔している。
 けれども、味覚を元に戻すためには仕方ない――ぼくはそう思って、カレールーとご飯をスプーンで掬って、口の中に放り込んだ。
 眼前に、地獄が出現した。

 ◇◇◇

 ――というのはあまりにも言い過ぎなので修正するが、正確にはそこまでではなかった。我慢していた、といえばそれまでだけれど、辛さをここまで濃縮させてしまったらこれは最早痛覚と変わらない――そんなことを考えるぐらいだった。
 良くこんな物を提供出来るものだ、と思う。注文した人間が文句を言うのはどうかと思うけれど、本当にこれは作った人間は食べられる代物なのだろうか? きっとそうじゃない気がする。そうじゃないと思うんだよな。違うだろうか? 一度きちんとマスターと話をした方が良いかもしれないな。
「……お前さん、いつもそんなに辛い物を注文しちゃいないのにどうしたのかと思ったけれど、まさか辛さを克服した訳じゃねえのか?」
 ぼくの苦悶した表情を見かねてか、マスターはぼくに問いかけた。
「いや……大丈夫」
「全然大丈夫じゃねえよ。そのひねり出したような発言は、ちょっと心配になるな。……あー、水は飲まない方が良いぜ。水で流し込めるような感じがするかもしれねえけれど、それは大きな間違いで、実際はさらにヒリついてしまうっていう悪循環に陥っちまう。だから実際には――」
 そう言ってマスターは湯呑みをぼくの前に置いた。中からは湯気が出ている。まさかお湯……なのか?
「何だ、その驚いているような顔は。まさかお湯では駄目だと思っているのか? 逆に辛さが増してしまうんじゃないか、なんて思っていたりするか? だとしたら、そいつは大きな間違いだと言っておこう。水よりもお湯みたいな温かい飲み物や牛乳やヨーグルトなどの乳酸菌飲料が一番良いんだ。ラッシーがご希望かい? だったら、一杯分の料金は貰うがね。お湯だけなら、サービスにしてやるぞ」
「そういうところはちゃっかりしているんだよな……」
 ともかく、助言通りお湯を一口。熱々ではなく、人肌とまではいかないがちょっと温めになっているのが非常に有難い。
 飲んでみると……確かにちょっと和らいでいるような気がする。
「確かに……」
「ラッシーは飲むかい?」
 ラッシー推しだな、マスター。
 そんなに注文してもらいたいか。
 というか今飲んでしまうとカレーを食べきれる気がしないし、取り敢えずそれは食べ終わってから注文することにしようかな。最初はタンドリーチキンでジャブを繰り出しておくべきだったな。最初からこんな激辛カレーなんて食べられる訳がないだろうし。
「ラッシーは美味しいけれど、確かにその通りではあるかね。一度飲んでしまうとカレーと交互に食べていけばあっという間にラッシーはなくなってしまう。それぐらい魔力のある飲み物だよ。ラッシーというのはね……」
「あ、いや、結構です」
 ラッシーについての知識を延々と語られてしまっては、カレーを食べるタイミングがなくなってしまう。
 こうしてお湯という最強のパートナーを手に入れたぼくは、この激辛カレーを倒すべく再び戦いに挑むのだった――。

 ◇◇◇

 食べ終わるまでに、三十分の時間を要した。
 ラッシーを飲みながら、ぼくはマスターと簡単に会話を交わしていた。因みにラッシーはプレーンを飲んでいる。激辛カレーで口内がズタズタになっているので、ヨーグルトの優しい味は今とても相性が良い。もっと飲みたいところだけれど、これは流石に自分の胃と相談しないといけないかな。あと乳酸菌だから飲み過ぎると後でトイレに駆け込むことになりかねない。
「食べきれるとは思ってもみなかったよ。……そのラッシーは、別に金は払わなくて良いからさ。男意気、見せてもらったからな。あ、二杯目からはちゃんと正規の料金を支払ってもらうからねえ。それはそのつもりで頼むよ」
 何だか良く分からないけれど、ラッシーは支払わなくて良いのか……。だとしたらちょっとラッキーではあるかな。こんなカレーを食べるのは、正直罰ゲームを自ら望んで行ったって形になるのだろうけれど、それが良い方向に成功したというのならば有りだったかもしれない。きっとぼくの味覚もリセットされたことだろう――逆にこれでリセットされなければ何をすれば良いのか全く見当がつかない。絶食でもすれば良いだろうか?
「それにしても、どうしてこんな辛いカレーを食べようとしたんだ? 珍しいじゃないか。あの探偵の差し金かね?」
「まあ、遠からず近からず……といったところですかね」
 マスターも神原のことは知っている。
 というか、この店自体が神原の事務所から歩いて行ける距離にあるから、神原も良く足を運んでいるのだ。あんな事務所では炊事など出来やしないから。
posted by 巫夏希 at 23:43| Comment(0) | 心霊探偵

2022年09月17日

第二話 シュレーディンガーの幽霊20


15

 エピローグ。
 というよりは、ちょっとだけ長い後日談。
 ええと、先ずは執事について話すことにしようかな――この事件を作り上げた張本人であって、幽霊未遂を幽霊に仕立て上げようとした人間でもあるのだけれど、そんなことをしようとした理由は至ってシンプルではあった。
「どうして、こんなことをしようと?」
「……この絶海の孤島では、娯楽は存在しません。いいや、それは言い過ぎではありますか……正確には、娯楽という存在そのものが非常に乏しいのですよ」
「そりゃあまあ……、想像が付きそうなものではあるけれどね」
「ですが、娯楽は常に提供され続けねばなりません。理由は分かりますね? お嬢様の暇を潰すためです」
「暇を潰すために……、今回の幽霊未遂を仕立て上げた、と? だとしたら、酷く滑稽ではあるかな」
「笑うが良い……。わたしとしては、お嬢様のためにやってきたのですから。そりゃあ、わたしだってこのことは悪いことだっていうのは理解していました。けれども……、けれど、それじゃ無理だったんですよ。何もかもが、綺麗事だけでは生きていけないんです」
「綺麗事……ねえ。そりゃあ確かに綺麗事じゃ何も出来やしないけれどね。実際、お嬢さんのことをずっと思っていたからこそ、それが出来ていたのだろうし、それを否定するつもりはありゃしないさ」
 神原、だったらどうしてそうも非難しているんだ? お前の本心が全く見えてこないのが気になるところではあるけれど……。
「――でも、嘘を吐いて良い理由にはならないと思うね。殺人鬼を作って、殺人事件を作って、存在するかしないか死体を見ないと分からないなどと宣って、こうやって人を集めている――成る程、確かに目的は見え見えではあるかな。けれども、やり方がスマートではなかったね。ただ、それだけに過ぎないのだけれど」
「……否定はしない。寧ろ、それだけの非難で済むのならば、それで構いません」
 執事は、いやに冷静だった――ともあれ、罪に問われることもないだろうし、別に本人がここまで反省しているのならばそれはそれで――。
「――何故、このようなことをしたのですか? 確かにわたしは、暇を持て余していましたけれど……」
 令嬢の問いに、一瞬空気が変わったような気がした。
 話がこれで上手く纏まるだろう――と思っていた矢先に、話を混乱させてしまうような一撃、とでも言えば良いだろうか。いずれにせよ、面倒な話になりそうなのは間違いない。もうちっと、空気を読んで発言してくれないものかな?
「空気を読むかどうかは、ここで一番偉い人間が決めることだと思うがね、たーくん。今、一番偉い人間は誰だと思う? 我々をこんな絶海の孤島まで招待したのは誰だっけ?」
 そんな、わざわざ質問をしなくたって覚えているよ。ぼくを何だと思っているんだ。
 秋山の言葉に続いて、執事は深く頭を下げる――それは、純粋な謝罪だった。それ以外の意図など、何も見つかりはしなかった。
「本当に、本当に申し訳ございません……。わたしはただ、あなた様の暇を潰してあげようと……」
「別に、そんなことを考えなくても良いではありませんか。あなたがくだらない話をしてくれること、どんなことでも話し相手になってくれること……、それだけで良いではありませんか。わたしはそれでも……十分に暇は潰せましたよ?」
 良いこと言うじゃないか、お嬢さん。
 まあ、これは気持ちのすれ違い――これが一番の原因、ってところなのかな。
 ぼくはそんなことを思いながら、今回の事件を勝手に締めくくるのだった。

 ◇◇◇

 ところが、残念なことにまだ一話分に文字数が満たしていないためか、まだちょっとだけ余談を続ける必要があった――きっとこれはいつか起きるであろう改稿の際には何かしら文章が変わるだろうから、貴重なことだと理解しておいて欲しい。多分ね。
 あれからぼく達はお詫びと題して二日間滞在することとなった――元から居た葉加瀬達は三日前にやってきていたこともあったけれど、時間には余裕があったためかそのまま滞在していることとなった。
 食事は豪華絢爛、高級食材のオンパレードで食べる物全てがぼくの想像を遙かに上回る代物ばかりで、ぼくとしてはちょっと麻痺してしまいそうだった。流石にこれを二日間食べ続けてしまっては、帰ってからの食生活が大変になりそうだ――何処かでリセットを図らなくてはなるまい。例えば強烈に辛い物を食べて味覚を麻痺させるとか。この高級食材の味を覚えた舌では、きっと普通の食べ物を食べたところで満足はしてくれないだろうし。
 最終日、秋山と少しだけ話す時間があった。
 まあ、それもまた偶然によるものだったのだけれど。
「おう、たーくん。今日はいよいよ最終日だな。ここの暮らしには慣れたか?」
「……慣れたくても慣れるものじゃありませんよ。それとも、それはただの皮肉ですか?」
 屋敷の広大なベランダで、秋山は煙草を吸っていた。
「……喫煙者には肩身が狭い時代になりましたよね? ぼくは煙草を吸うことはありませんけれど……。その感じだと、ここに泣く泣く足を運んだ、って感じですか」
「うん? たーくんは何を勘違いしているのか分からないけれど……、これは煙草じゃないねえ。ほら」
 煙草を口から取り出すと、その先端には球体の飴が付いていた。
「……飴、ですか?」
「探偵は頭を使う。だから糖分が常に必要――って訳だね。これはそのための飴。舐めるかい? 常に十種類以上の飴をキープしているからね。因みに今のおすすめはナシゴレン味だ」
 いや、ナシゴレン味って。
 想像しただけで飴にする題材とは到底考えつかないのだけれど。
「まあ、たーくん。ここで出会ったのも何かの縁だ。どうせ何処かで出会うことになるのだろうけれど、これだけは言っておいてやろう」
「?」
 いきなり真面目なトーンで言われても困るのだけれど。
「――幽霊ってのは、奥が深い。気をつけな。気付けば底なし沼の如く沈んでいっちまうから」
 それだけを言い放って、秋山はベランダから出て行った。
 まるで、ぼくにその言葉を伝えるためだけに――このベランダに居たかのように。
 それは考え過ぎかもしれないけれど、しかしそれは実際に本人に聞くまでは確定しないだろう。それこそ、シュレーディンガーの猫のように。
posted by 巫夏希 at 14:03| Comment(0) | 心霊探偵