一応言っておくけれど、あたしは殺人鬼という立ち位置に立っているがそれをどう捉えるかは勝手だ。自分の快楽のために人を殺している−−こういうと不条理だったり非常識だったり、そう考えるかもしれないけれども、それはどうだって良い。
あたしは、こうやって生きている。
それを取り上げられちまったら、あたしがあたしじゃなくなってしまうだろうな。
あの日も色々あって一人殺した帰り道だったと思う。近所にあるスーパーマーケットに買い物に行った帰りだよ。……何だよ、殺人鬼がスーパーに行くのがおかしいか? 別にあたしだって生活をするんだ。飯を食べるし調理だってするし掃除だってする。まあ、掃除については部屋の掃除よりも人命を掃除する方が楽かもしれないけれど。……あ、これは殺人鬼ジョークって奴かもしれないかな?
さて、そんなことはどうだって良い。ともあれその時もあたしはおつとめ品を大量に入れたエコバッグを片手に帰り道を歩いていたのさ。
その時だよ。
電柱の傍に、少女が泣きじゃくっていたんだ。
深夜二時に、だよ。殺しはいつも夜中にやるからね。だから決まってこの時間、って訳。行きつけのスーパーの店員は、あたしと顔なじみだからねえ。もしかしたら深夜パートの女性とぐらいしか思っていないかも? 流石にあたしを殺人鬼だとは思わないだろうね。血のにおいは嫌というほど消している。慎重にもなるからね。
「……変だな」
少女の前を、何人かの人間がすれ違っている。
しかしながら、彼女を誰も見てはいない。
そこであたしは直ぐにピンときたよ。……ああ、やっぱり彼女は違うのだと。
正直、こんなことをずっとやっていると、見えちまうんだよ。人には見えないものが、ね。そりゃあまあ、厭なことばかりもあったけれど直ぐに受け入れた。これもまた人生であり、他の人間には持ち合わせていない特異性だと思ったからだ。変か?
とはいえ、だ。
見えているからといって、そのまま放っておくことも出来た。
だのに、どうして見捨てられなかった、と思う?
答えは簡単だ。見捨てなかったのではなくて、見捨てられなかったんだよ。
見捨てることが、全く出来なかったからだ。
だからあたしは彼女に声を掛けて、拾ってやったって訳だ。地縛霊だったはずなのにね。
7
「……とまあ、これがあらすじってところだね」
御園はそうさらりと言ってのけた。
いや。
いやいや。
流石にそんなことを言われて、簡単に信用出来る訳がない。幽霊を連れ出してきた? しかも地縛霊を、だと? 地縛霊というのはその地に縛られているから地縛霊と呼ばれているのであって、それを簡単に連れ出すことは出来ないはずだ。
「……地縛霊を連れ出す、ねえ。そんな簡単なことが出来る−−」
やっぱり神原もそれを指摘した。そりゃあそうだろう。そんな非現実的なこと−−、
「−−確かきみが持っているものって、『つながり』を見つけることが出来る、そんな能力じゃなかったかな?」
「え?」
神原の質問に、ぼくは目を丸くする。
「神原。つながり、って?」
「抽象的な言い回しだけれど、それしか言いようがないもののことだ。文字通り、繋がりだよ。何かと何かが接続すること。それが見える能力……確かバベルプログラムに居たような気がするけれど?」
「あたしがそうだと分かっていたのか?」
「いいや、全く。話を聞いていて思い出した、ただそれだけに過ぎないよ」
ほんとうかな。
最初から分かっていたような、そんな感じだったけれど。
まあ、ここはアイツの名誉のためにも追い打ちしないでおくか。
「つながり……そうね。確かにその通りだよ。自覚したのは随分と後になってしまったのだけれど、あたしはどんなつながりだって見ることが出来る。友情、愛情、その他の感情だけではなく−−抑え込まれている『何か』や、人間の生命のつながりも、だ」
「生命のつながり……?」
「例えば、あたしは簡単にアンタを絶命させることが出来る。それは人間の血の流れとか神経の張り巡らしとか、そういったものが、全て『つながり』として目に見えているんだ。靄のようなものと思ってもらえば良いかもしれないね」
……何だか、難しくなってきたな。
「その、つながり、ってのは」
「言っただろう。地縛霊をも解き放つことが出来る。いや、まさか出来るとは思いもしなかったけれど」
マジかよ。
それって色々とヤバイ話だったりしないか?
「ヤバイのかヤバくないのかと言うと……まあ、ヤバイ部類に入るのだろうね。さりとて、つながりを切ることが出来るのは、そう簡単ではないのだけれど」
そう言って、御園は持っていたナイフを近づける。
「……ただのナイフじゃないのか、それは?」
「そう。大抵の人間はこの違いに気付けやしないのだけれど、これは特別な得物でね。世界に数人しか居ないとされる高名な刀鍛冶が造った。まあ、最早その名前も知ることはないし、あたしが会うこともないのだけれど。何故ならこいつは、刃こぼれすることも衰えることもない。自己修復するかというと、そこまでではないのだけれど」
「何かそれ……」
常識ってものが一切通用しないのか?
今、ぼくが知っている常識が悉く崩れ去っているような気がするのだけれど、考えるだけ無駄なのだろう。きっと。
2024年06月12日
第四話 殺人鬼と幽霊7
posted by 巫夏希 at 00:00| Comment(0)
| 心霊探偵
2024年05月06日
第四話 殺人鬼と幽霊6
5
そうだった。
下らない話を延々と続けているのではなくて、きちんと本題を進めないといけなかった。
「……これから、Web会議をしようと思うのだけれど、良いか?」
「良いけれど、あたしはそういったものの類いは疎くてね。出来るかどうかも分からないが」
「それについては問題ない。こちらで準備をする。ただあんたは、心霊探偵の話を聞いてくれれば良い。質問もするかもしれないが、それについても解答をしてくれ」
「へえ」
そこまで言ったところで、殺人鬼は笑みを浮かべた。
「話、通ったんだ。案外早く話が進んだようで良かったよ。……何時やる?」
「さあ? 一応、二十四時間待機しておくとは言っていた気がするけれど、時間も時間だしな……。そんな簡単に出てくれるとは思えない」
取り敢えずメッセージだけでも送っておくか、と思い連絡したらものの一分で返事が来た。
起きているのかよ、今夜中だぞ。
まあ、それはブーメランになってしまうので、あまり言いたくないのだけれども。
「早かったね、助かったよ」
Web会議を開始すると、開口一番に神原はそう言った。
「いや、早かったって言うか……。おまえ、今の時間も起きているのか? 常に? 何時寝ているんだよ」
「その言葉、そっくりそのまま返しても良いかな?」
そりゃあまあ、そういう返事になるよね。
「それはそれとして……。きみが殺人鬼?」
「覚えているかい? 御園芽衣子と言うのだけれど。一応、この世界ではまあまあ名の知れた存在ではあるよ。人を殺して何か生活しているよ」
その『何か』が重要な要素に思えるけれど……、まあ、それは良い。
「御園……。ああ、何か聞いたことはあるな。でも、バベルプログラムで一緒だったかどうかまでは覚えていない。残念ながら、記憶力が弱いんだ。些末なことではあるけれどね」
「探偵なのにか?」
「探偵だからこそ、だよ。探偵というのは、ある特定の分野で類い希なる才能を発揮するからこそ、事件を解決へと導くことが出来る。シャーロックホームズだってそうだろう。完璧な存在ではなかったはずだ。彼は確かに有能な探偵だったが、ある時は薬、ある時はニコチンパッチの中毒者として描かれているケースがあった。つまり、完全無欠な名探偵など、存在しないって証左になるかな」
「幽霊の話を聞きに来たんじゃないのか?」
御園の言葉を聞いて、神原は頷く。
「そうだった、そうだったね……。いやあ、話がどんどん逸れていってしまって、最終的には元々の話題から全くかけ離れたところにやって来ることは存外良くある話ではあるのだけれど、今回は直ぐに行きやすくなってしまうね。何でかな? やっぱり、バベルプログラムの同期……だったからかな?」
「さっきは覚えていないとか言っていたくせに、都合の良いことを言うんじゃねえよ」
至極もっともな発言だ。
「バベルプログラムについては、語るべき思い出といえるものが然程多くはないのだけれど、しかしながらそんなに出会える機会も少ないからね……。他の人間とは会ったことがあるかな?」
「きみはないのか。ぼくはもう何人も会っているよ。それこそ、今目の前に居る彼だって」
ぼくはバベルプログラムを最後まで受けてはいないけれどね。
「何を言う。バベルプログラムはそもそも最後まで終了していない。予定されていたプログラムが全て完了しなかったが無理矢理に放逐しただけに過ぎない。つまり、バベルプログラムを完了させた人間なんて誰一人居ないんだよ」
「そういうものか?」
「そうだったかもしれないね。確かに、バベルプログラムは完結しなかった−−はずだ。だからこそ、バベルプログラムの経験者は居ても修了者は誰一人として存在しないはずなんだよ。まあ、自称している人間が居るならまた別の話だけれどね」
「ところで、幽霊の話だが」
神原は御園から指摘されたので、咳払いを一つする。
「そうだった。そうだったね……。幽霊から声を掛けられる、ってのはなかなか珍しい話ではあるんだよ」
「そうなのか?」
「そうだよ。大抵はその幽霊に関係する人間じゃないと、見ることも話を聞くことも−−つまり、認識することが出来ないんだ。当たり前と言えば当たり前であって、幽霊というのは、既にこの世から離れようとする存在であるのだから、関係性を持っている存在は細い細い紐のようなもので繋がっているのだと考えていけば良い。そして、その細い細い紐を手繰り寄せて、自らの存在を認識してもらおうとする−−大抵の幽霊はそういう感じだ。しかし、違うのだろう?」
「そう。幽霊はね、見ず知らずの存在だった。当たり前だよね、あたしは殺人鬼だ。一応、プライドは持っている。殺した相手のことは、覚えているよ。金輪際、忘れることもないだろうがね……」
そう言って、御園は幽霊と出会った日のことを語り出すのだった−−。
そうだった。
下らない話を延々と続けているのではなくて、きちんと本題を進めないといけなかった。
「……これから、Web会議をしようと思うのだけれど、良いか?」
「良いけれど、あたしはそういったものの類いは疎くてね。出来るかどうかも分からないが」
「それについては問題ない。こちらで準備をする。ただあんたは、心霊探偵の話を聞いてくれれば良い。質問もするかもしれないが、それについても解答をしてくれ」
「へえ」
そこまで言ったところで、殺人鬼は笑みを浮かべた。
「話、通ったんだ。案外早く話が進んだようで良かったよ。……何時やる?」
「さあ? 一応、二十四時間待機しておくとは言っていた気がするけれど、時間も時間だしな……。そんな簡単に出てくれるとは思えない」
取り敢えずメッセージだけでも送っておくか、と思い連絡したらものの一分で返事が来た。
起きているのかよ、今夜中だぞ。
まあ、それはブーメランになってしまうので、あまり言いたくないのだけれども。
「早かったね、助かったよ」
Web会議を開始すると、開口一番に神原はそう言った。
「いや、早かったって言うか……。おまえ、今の時間も起きているのか? 常に? 何時寝ているんだよ」
「その言葉、そっくりそのまま返しても良いかな?」
そりゃあまあ、そういう返事になるよね。
「それはそれとして……。きみが殺人鬼?」
「覚えているかい? 御園芽衣子と言うのだけれど。一応、この世界ではまあまあ名の知れた存在ではあるよ。人を殺して何か生活しているよ」
その『何か』が重要な要素に思えるけれど……、まあ、それは良い。
「御園……。ああ、何か聞いたことはあるな。でも、バベルプログラムで一緒だったかどうかまでは覚えていない。残念ながら、記憶力が弱いんだ。些末なことではあるけれどね」
「探偵なのにか?」
「探偵だからこそ、だよ。探偵というのは、ある特定の分野で類い希なる才能を発揮するからこそ、事件を解決へと導くことが出来る。シャーロックホームズだってそうだろう。完璧な存在ではなかったはずだ。彼は確かに有能な探偵だったが、ある時は薬、ある時はニコチンパッチの中毒者として描かれているケースがあった。つまり、完全無欠な名探偵など、存在しないって証左になるかな」
「幽霊の話を聞きに来たんじゃないのか?」
御園の言葉を聞いて、神原は頷く。
「そうだった、そうだったね……。いやあ、話がどんどん逸れていってしまって、最終的には元々の話題から全くかけ離れたところにやって来ることは存外良くある話ではあるのだけれど、今回は直ぐに行きやすくなってしまうね。何でかな? やっぱり、バベルプログラムの同期……だったからかな?」
「さっきは覚えていないとか言っていたくせに、都合の良いことを言うんじゃねえよ」
至極もっともな発言だ。
「バベルプログラムについては、語るべき思い出といえるものが然程多くはないのだけれど、しかしながらそんなに出会える機会も少ないからね……。他の人間とは会ったことがあるかな?」
「きみはないのか。ぼくはもう何人も会っているよ。それこそ、今目の前に居る彼だって」
ぼくはバベルプログラムを最後まで受けてはいないけれどね。
「何を言う。バベルプログラムはそもそも最後まで終了していない。予定されていたプログラムが全て完了しなかったが無理矢理に放逐しただけに過ぎない。つまり、バベルプログラムを完了させた人間なんて誰一人居ないんだよ」
「そういうものか?」
「そうだったかもしれないね。確かに、バベルプログラムは完結しなかった−−はずだ。だからこそ、バベルプログラムの経験者は居ても修了者は誰一人として存在しないはずなんだよ。まあ、自称している人間が居るならまた別の話だけれどね」
「ところで、幽霊の話だが」
神原は御園から指摘されたので、咳払いを一つする。
「そうだった。そうだったね……。幽霊から声を掛けられる、ってのはなかなか珍しい話ではあるんだよ」
「そうなのか?」
「そうだよ。大抵はその幽霊に関係する人間じゃないと、見ることも話を聞くことも−−つまり、認識することが出来ないんだ。当たり前と言えば当たり前であって、幽霊というのは、既にこの世から離れようとする存在であるのだから、関係性を持っている存在は細い細い紐のようなもので繋がっているのだと考えていけば良い。そして、その細い細い紐を手繰り寄せて、自らの存在を認識してもらおうとする−−大抵の幽霊はそういう感じだ。しかし、違うのだろう?」
「そう。幽霊はね、見ず知らずの存在だった。当たり前だよね、あたしは殺人鬼だ。一応、プライドは持っている。殺した相手のことは、覚えているよ。金輪際、忘れることもないだろうがね……」
そう言って、御園は幽霊と出会った日のことを語り出すのだった−−。
posted by 巫夏希 at 00:10| Comment(0)
| 心霊探偵
2024年02月06日
第四話 殺人鬼と幽霊5
夜が来るのを待ち遠しいと思ったのは、どれぐらいぶりだろうか。
そんなことを思い返していても、時が流れるのは遅い。誰しも時間は平等に流れているはずなのに。
「やっほー、ちゃんと話を繋いでくれたかな?」
殺人鬼のお出ましだ。
まさか、本当にやって来るとは……。
流石に予想外というか、こんなに何度も同じ場所にやって来て、問題ないものなのかね?
「……それにしても、心霊探偵はいつの間に有名になったのやら」
「まあ、そりゃね。有名だものね、心霊探偵」
有名なのか?
有名だったら、仕事が有り余る程ありそうなものだけれど。
「有名と言っても、一般人にはそうではないと思うよ。当たり前だけれど……。オカルトって、誰も信じないじゃん?」
信じているから、頼っているのではないのか。
「一般人は、ってだけ。裏の世界の人間からすれば、信じない訳がない。死者の声を聞き、解決出来ない謎を解決する。普通の常識であれば、変わり者の烙印を押されるのは間違いないでしょうけれど」
「それは……間違いないね」
変わり者の烙印を押されるだけであるならば、未だ良い方かもしれないかな。
ずっとぼくは−−あいつと向き合ってきた訳だし、それぐらいは理解をしているつもりだ。あいつは鬱陶しく思っているかもしれないけれどさ。
「……案内はしてくれるのかな?」
「案内?」
敢えてすっとぼける形で聞いてみた。
「……分かっていない訳もないだろう。あたしには幽霊が見える。殺した訳でもない少女の、だ……。殺人鬼ではあるが、別に殺したくない相手は一切手を掛けない。何て言うんだっけカな、あんまり記憶にはないのだけれど……。だからこそ、あたしはこの子の話を聞いてみたいとは思ったけれど、翻って、それを聞いたところで何も解決出来ないって訳だ」
「どうしてそう思う?」
「幽霊の声を聞いたところで、干渉出来るとでも?」
干渉、か。
確かにその通りだ。
幽霊の声というのは、少しばかりアンテナの感度が良ければ聞くことが出来るらしい。
場所によって、運が良ければ海外のラジオを聞くことが出来る−−そんな話を聞いたことはないだろうか? それと同じ理屈だ。まあ、あんまり経験したこともないし、幽霊がこちらに干渉してくることは滅多に……滅多にないはずなのだけれどね。
「幽霊が干渉はしてこない、ってことで良かったよね?」
「そうだな。声が聞こえるだけ、だ。変な話でも何でもない……。そう記憶しているが、違うか?」
「違わないよ、別に。ところで、神原−−心霊探偵の件だけれど、やはり昼間では厳しいのかな?」
「厳しい、とは言わないがね。やはり、殺人鬼である以上、人目がつくところには行きたくない。ただそれだけだよ」
まあ、そうだろうな。
とはいえ、あいつは事務所から出てきてはくれないだろうし、やはりWeb会議で何とかするしかないか……。
「ここって、見回りは?」
「そりゃあ、来るよ。ここは普通の病院だけれど、抜け出しちゃう患者は居るらしいからね……。ぼくなんかは何もしないから、看護師さんからしてみれば相当優秀な存在と言われるらしいのだけれど」
優秀な入院患者、ってカテゴライズもどうなんだ、って話ではあるけれどね。
「見回りが来るんだったら、ここでWeb会議をするしかないかー……。だってほら、流石に無人になってしまったら、大事になるだろう?」
「そりゃあ、なるだろうけれど……。でも、どうやって? イヤホンを付けていたら、それはそれで周囲の音を聞き取れないし、何かあったときに対処が遅れるのでは?」
「……あんた、あたしがただ無闇矢鱈に殺人鬼をやっていると思っているのか? だとすりゃあ、心外だね」
「勝手に心外にされても……。で、どうするんだ? まさか隠し通す術があるとでも?」
「バベルプログラムのことを、何も覚えてはいないのかな?」
また、バベルプログラムか。
「別に、覚えていない訳ではないけれど」
溜息を吐いて、ぼくは答える。
「そりゃあ、そうか。……一応、参加者だもんね?」
「出来ればもう消してしまいたい過去ではあるがね」
「どうして?」
「どうして、って……。バベルプログラムは、所謂世間から見捨てられた、鼻つまみ者の集まりだ。そんな集まりに参加していたとて、そんなものは履歴書にも書けやしない。その経歴は、輝かしいものでも何でもないからだ。ただ、何処にも発表できない数年の記録が残るだけ……」
「何か、面倒臭いな」
ぼくの悩みを一刀両断しやがった。
「いや、そりゃあ、それはそうなのだけれど……」
「別にどうでも良いと思うのだけれど、違うのか? あんたがあんたであることは、あんた自身しか評価出来ないだろ。それとも、アレか? 他人の評価をずっと聞いていないとやっていられないタイプ? だとすりゃあ、息苦しい生き方をしているものだけれどね」
「現代社会で生きる、ということは……そういうことだろう? 多分」
「−−で、あたしがどうして殺人鬼になったのか、って話だったよな?」
そうだった。
バベルプログラムの話が出てから、すっかり道筋を逸れてしまった。
「あたしが殺人鬼として優秀なのは、ちゃんと理由がある。つまり、殺人を犯しても見つかりはしないプロセスが存在する訳だ」
「プロセス?」
「認識……或いは自覚、とでも言うか。それを騙すことが出来る。分かるかな?」
「認識を……騙す、だって?」
何を言っているのか、さっぱり理解出来ない。
「人はどうして他人や物質を認識出来ると思う? それは、感覚があるからだ。五感でも感じられるのかもしれないけれど……、しかしそこには少なくとも『何か』がある、というのを認識出来る訳だ」
「成る程?」
つまり、認識を騙すってことは、その感覚を偽るということか?
「ご明察。そういったところは、頭の回転が速いな。……ああ、いや、別に馬鹿にしたつもりではないよ。認識を騙し、そこには誰も居ないと信じ込ませる」
「でも、それだと……ぼくも消えてしまうんじゃ?」
「騙すというのは、何も消えてしまうだけではないよ。例えば、それに触れるだけで−−既に出会ったと誤った認識を植え付けることだって出来る。錯乱させる、とは言い過ぎだけれど……」
「末恐ろしいな。そりゃあ……」
バトル漫画で敵として出てきたら、勝ち目がないのでは?
まあ、多分この作品がバトルものに変貌することはないのだろうけれど……。
そんなことを思い返していても、時が流れるのは遅い。誰しも時間は平等に流れているはずなのに。
「やっほー、ちゃんと話を繋いでくれたかな?」
殺人鬼のお出ましだ。
まさか、本当にやって来るとは……。
流石に予想外というか、こんなに何度も同じ場所にやって来て、問題ないものなのかね?
「……それにしても、心霊探偵はいつの間に有名になったのやら」
「まあ、そりゃね。有名だものね、心霊探偵」
有名なのか?
有名だったら、仕事が有り余る程ありそうなものだけれど。
「有名と言っても、一般人にはそうではないと思うよ。当たり前だけれど……。オカルトって、誰も信じないじゃん?」
信じているから、頼っているのではないのか。
「一般人は、ってだけ。裏の世界の人間からすれば、信じない訳がない。死者の声を聞き、解決出来ない謎を解決する。普通の常識であれば、変わり者の烙印を押されるのは間違いないでしょうけれど」
「それは……間違いないね」
変わり者の烙印を押されるだけであるならば、未だ良い方かもしれないかな。
ずっとぼくは−−あいつと向き合ってきた訳だし、それぐらいは理解をしているつもりだ。あいつは鬱陶しく思っているかもしれないけれどさ。
「……案内はしてくれるのかな?」
「案内?」
敢えてすっとぼける形で聞いてみた。
「……分かっていない訳もないだろう。あたしには幽霊が見える。殺した訳でもない少女の、だ……。殺人鬼ではあるが、別に殺したくない相手は一切手を掛けない。何て言うんだっけカな、あんまり記憶にはないのだけれど……。だからこそ、あたしはこの子の話を聞いてみたいとは思ったけれど、翻って、それを聞いたところで何も解決出来ないって訳だ」
「どうしてそう思う?」
「幽霊の声を聞いたところで、干渉出来るとでも?」
干渉、か。
確かにその通りだ。
幽霊の声というのは、少しばかりアンテナの感度が良ければ聞くことが出来るらしい。
場所によって、運が良ければ海外のラジオを聞くことが出来る−−そんな話を聞いたことはないだろうか? それと同じ理屈だ。まあ、あんまり経験したこともないし、幽霊がこちらに干渉してくることは滅多に……滅多にないはずなのだけれどね。
「幽霊が干渉はしてこない、ってことで良かったよね?」
「そうだな。声が聞こえるだけ、だ。変な話でも何でもない……。そう記憶しているが、違うか?」
「違わないよ、別に。ところで、神原−−心霊探偵の件だけれど、やはり昼間では厳しいのかな?」
「厳しい、とは言わないがね。やはり、殺人鬼である以上、人目がつくところには行きたくない。ただそれだけだよ」
まあ、そうだろうな。
とはいえ、あいつは事務所から出てきてはくれないだろうし、やはりWeb会議で何とかするしかないか……。
「ここって、見回りは?」
「そりゃあ、来るよ。ここは普通の病院だけれど、抜け出しちゃう患者は居るらしいからね……。ぼくなんかは何もしないから、看護師さんからしてみれば相当優秀な存在と言われるらしいのだけれど」
優秀な入院患者、ってカテゴライズもどうなんだ、って話ではあるけれどね。
「見回りが来るんだったら、ここでWeb会議をするしかないかー……。だってほら、流石に無人になってしまったら、大事になるだろう?」
「そりゃあ、なるだろうけれど……。でも、どうやって? イヤホンを付けていたら、それはそれで周囲の音を聞き取れないし、何かあったときに対処が遅れるのでは?」
「……あんた、あたしがただ無闇矢鱈に殺人鬼をやっていると思っているのか? だとすりゃあ、心外だね」
「勝手に心外にされても……。で、どうするんだ? まさか隠し通す術があるとでも?」
「バベルプログラムのことを、何も覚えてはいないのかな?」
また、バベルプログラムか。
「別に、覚えていない訳ではないけれど」
溜息を吐いて、ぼくは答える。
「そりゃあ、そうか。……一応、参加者だもんね?」
「出来ればもう消してしまいたい過去ではあるがね」
「どうして?」
「どうして、って……。バベルプログラムは、所謂世間から見捨てられた、鼻つまみ者の集まりだ。そんな集まりに参加していたとて、そんなものは履歴書にも書けやしない。その経歴は、輝かしいものでも何でもないからだ。ただ、何処にも発表できない数年の記録が残るだけ……」
「何か、面倒臭いな」
ぼくの悩みを一刀両断しやがった。
「いや、そりゃあ、それはそうなのだけれど……」
「別にどうでも良いと思うのだけれど、違うのか? あんたがあんたであることは、あんた自身しか評価出来ないだろ。それとも、アレか? 他人の評価をずっと聞いていないとやっていられないタイプ? だとすりゃあ、息苦しい生き方をしているものだけれどね」
「現代社会で生きる、ということは……そういうことだろう? 多分」
「−−で、あたしがどうして殺人鬼になったのか、って話だったよな?」
そうだった。
バベルプログラムの話が出てから、すっかり道筋を逸れてしまった。
「あたしが殺人鬼として優秀なのは、ちゃんと理由がある。つまり、殺人を犯しても見つかりはしないプロセスが存在する訳だ」
「プロセス?」
「認識……或いは自覚、とでも言うか。それを騙すことが出来る。分かるかな?」
「認識を……騙す、だって?」
何を言っているのか、さっぱり理解出来ない。
「人はどうして他人や物質を認識出来ると思う? それは、感覚があるからだ。五感でも感じられるのかもしれないけれど……、しかしそこには少なくとも『何か』がある、というのを認識出来る訳だ」
「成る程?」
つまり、認識を騙すってことは、その感覚を偽るということか?
「ご明察。そういったところは、頭の回転が速いな。……ああ、いや、別に馬鹿にしたつもりではないよ。認識を騙し、そこには誰も居ないと信じ込ませる」
「でも、それだと……ぼくも消えてしまうんじゃ?」
「騙すというのは、何も消えてしまうだけではないよ。例えば、それに触れるだけで−−既に出会ったと誤った認識を植え付けることだって出来る。錯乱させる、とは言い過ぎだけれど……」
「末恐ろしいな。そりゃあ……」
バトル漫画で敵として出てきたら、勝ち目がないのでは?
まあ、多分この作品がバトルものに変貌することはないのだろうけれど……。
posted by 巫夏希 at 23:54| Comment(0)
| 心霊探偵











